こんにちは。
所長の川端康稔です。
きょうは、
「やる気」
についてお話しします。

みなさんは仕事でも、勉強でも、
「○○出来たら、○○あげる」
と言われたら、頑張れそうな気がしますか?
例えば、
「100点取れたら、お小遣いUP!」
とか、
「このプロジェクトを成功させたら報酬UP!」
とか。
これを外発的動悸付け、といいます。
実はこの外発的動悸付けは20世紀型の動機付けともいわれ、情報が複雑化した21世紀の現在では、場合によっては害悪ともなりかねないことが最新の研究によって明らかになっています。
さて、米国の名門私立大学、プリンストン大学にサム・グラッグス・バーグという心理学者がいます。
彼は学生達に下のような図を示し、こう質問しました。
「画鋲とロウソクとマッチがあります。ロウがテーブルにたれないようにロウソクを壁に取り付けてください」
「この問題をどれくらい早く解けるか時計で計ります」

そして、参加者達を2つのグループに分けて、
1つのグループには
「この種の問題を解くのに一般にどれくらい時間がかかるのか、平均時間を知りたい」
と言います。
もう1つのグループには報酬を提示します。
「上位25パーセントの人には 5ドルお渡しします。1番になった人は 20ドルです」。
これは何年も前の話なので、物価上昇を考慮に入れれば、数分の作業でもらえる金額としては悪くありません。十分なモチベーションになります。
ちなみにこれは「ロウソク問題」という問いで、1945年に、カール・ドゥンカーという心理学者が考案したものです。様々な行動科学の実験で用いました。
さて、問題はいかがですか?
答えは分かりましたか?
たいていの人は5分から10分もあれば分かるかもしれません。
人によっては画鋲を駆使したり、壁にそーっとロウを溶かして貼り付ける、なんて考えるかもしれませんね。
でもそれだとロウが、いつか垂れてしまいます。
ちなみに、答えはこうです。↓図

この実験の結果ですが、
なんと無報酬のグループよりも、報酬を準備したグループのほうが、答えを導き出すのに3分半も長くかかってしまったのです。
無報酬グループの勝利。
そして、何度実験しても同じような結果になったとのことです。
報酬を信じて、
モノ・カネを信じて、
必死で生きて、頑張ってきた人達は、この結果をどう受け止めればよいのでしょうか。
しかし以下の写真を用いて、別の問題も出してみました。
その結果、今度は報酬を提示したグループが勝利しました。

先ほどとどこが違うか分かりますか?
そう、箱から画鋲を出して、箱を「画鋲入れ」と認識させずに、問題を単純化させたのです。
お分かりの通り、鍵になるのは「機能的固着」を乗り越えるということ。
多くの人は最初あの箱を見て、単なる画鋲の入れ物と認識し、視界に入りません。しかし箱に気づくと、それは別な使い方をすることもでき、ロウソクの台になるという発想の転換ができます。
サム・グラッグス・バーグはこの結果について以下のように結論づけています。
①問題が複雑で無い場合は、報酬を示した方がより問題解決のインセンティブが上がる。
※こんな簡単なことでお金がもらえるんだ、という感じです。
②問題が複雑である場合、報酬を示すと視野が狭くなり、問題解決能力が下がる。
※報酬=お金はもらえるけれど、難しいからメンドクサイ、感じです。→結果、心が疲弊します。
※無報酬=難しいけど挑戦したい!感じです。→結果、心が盛り上がります。
この実験結果に米国の文筆家ダニエル・ピンク氏はいいます。
「人々により良く働いてもらおうと思ったら報酬を出せばいい、ボーナスにコミッションあるいは何であれ― インセンティブを与えるのです。ビジネスの世界ではそうやっています。
しかし、ここでは結果が違いました。思考が鋭くなり、クリエイティビティが加速されるようにと インセンティブを用意したのに、結果は反対になりました。思考は鈍く、クリエイティビティは阻害されたのです。」
「この実験が興味深いのは、このような結果になるのは他のどのような場面においても例外ではないということです。この結果は何度も何度も 40年に渡って再現されてきたのです。
この成功報酬的な動機付け―If Then式に 「これをしたら これが貰える」というやり方は 状況によっては機能します。しかし多くの作業ではうまくいかず、時には害にすらなります。これは社会科学における最も確固とした発見の1つです。そして最も無視されている発見でもあります。」
つまり、
①の外発的動機づけは、単純作業の仕事やゲームであれば機能するが、複雑な問題に直面したら機能しない。人は「報酬のため」というだけの動機付けでは能力を発揮できない、ということです。
20世紀からいまだに続く報酬と罰、すなわちアメとムチでは、雑多な情報にまみれた21世紀の複雑は問題に立ち向かえないどころか、やる気を失ってしまうのです。
こんな話もあります。
米Googleの「20%ルール」というのをご存じでしょうか?
20%ルールとは、社内で過ごす時間の20%を、自分が担当している業務以外の分野に使うことを義務づけた制度です。
要は、勤務時間の2割はなにやってもいいよ、ということです。
その結果、Gmailのもとになったカリブー、Googleマップ、Googleサジェスト、Googleニュースといった、もはやネットインフラの一種と化しているプロダクトは、この20%ルールから生み出されました。
やりたいことをやる、
報酬のため、だとか、誰かや何かのためではなく、
自分自身の自主性、成長、目的のために興味を持って動くということ。
すなわち、
「内発的動機付け」
によって動くことを許可した結果、Googleはさまざまなイノベーションを可能にしたのです。
最後に百科事典の話を。
1990年代半ば、Microsoftは「Encarta」という百科事典を作り始めました。
何千というプロに公平なインセンティブ(報酬金=動機付け)を準備し、たくさんの記事を書いてもらいました。
たっぷり報酬をもらっているマネージャーが全体を監督し、予算と納期の中で仕上がるようにしました。
しかし、数年後、別の百科事典が登場します。
この百科事典はMicrosoftとは違う、別なモデルを採っていました。
それは、
・無報酬
・楽しみでやる
といったMicrosoftとは真逆のモデルです。
さて、この2つのモデルについて、20年前の経済学者に、こう訪ねたとします。
「百科事典を作るとして、上の2つのモデル、どちらが勝つと思いますか?」
20年前、まともな経済学者は、Microsoftの勝利と答えるでしょう。
しかし、結果はどうだったでしょう。
ウィキペディアが勝つと予想できた人がいたでしょうか。
そんな内発的動機付け、真のやる気を発揮させる方法を知りたい方は、ココロ研究所へ。